宿替えで移ってきた2軒目のホテルはまだ新しく、清潔感は申し分なしなのだが冷蔵庫にビールがない。ので、メンター・オコノギに聞いていたタスマックという公営の酒販店へ、といっても、はじめてのおつかい的な冒険に挑んだのではなく、Mさんにクルマで連れて行ってもらっただけのこと。準禁酒州のこの街で酒を飲もう/手に入れようと思うなら、超高級ホテルのバーに行くか、街なかに何軒かあるタスマックで買うか、1軒目のホテルのような偶然にありつくか、あるいはたまにメタノールが入っている密造酒を飲んで命を縮めるか。選択肢は少ない。
店の前に立ってみれば、飲酒という行為の蔑まれようを端的に物語る金網、鉄格子。酒飲みは、自由に歩き回れるが酒のない街に閉じ込められた囚人。タスマックは牢屋の小窓。娑婆とのインターフェースはここだけというわけだ。なにかとメタファーに富んでいる。ま、この牢屋のメシは臭いどころかめっぽう旨いので大して文句はないけれど。
K-5Ⅱs 公営ってことは、看守、もとい店員は公務員? 夜ともなれば酒にかつえた囚人たちがこの鉄格子に殺到し、押すな押すなの大騒ぎになるそうな。オソロシイ。
1本200ルピー(物価を考えれば高いナー)のキングフィッシャー大瓶を4本購入、するも、もちろん袋などくれないのでMさんのクルマまでおそるおそる抱えて運ぶ。準アウトローであるところの左党めらには袋などもったいないってか。小瓶を買った若者はジーパンのポケットに無理矢理押し込んでいる。
せっかく苦労して手に入れたおビールさまであるから、念願の南インド料理+ビールで一杯やらねばと、夜になってからアテ探しの散策に。おお、暗い通りに、昼間はいなかった屋台が点々と。イドゥリ、アッパム、ドーサに汁をかけ、みんな旨そうに立ち食いしている。
LX100
寄りついてしばらく物欲しげに覗き込んでみる(ビギナーには勇気が要った)も注文の仕方が全く分からないので、タイでもよくやる「This one, and this one, and…」「Your recommendation, please」のひどいカタコトでなんとかイドゥリとアッパム、汁物を求め、部屋に戻っていざビール! が…あれ? 思ったほど「カーッ、たまらん!」にならない。
揚げ物ならクーッ!になるのかな、とも思うが、あるいはたかだか数日の南インド料理続きで、身体がわずかにベジ寄りになり、無意識のヘルシー志向が酒をイマイチに感じさせているとか? チェックアウトまでの残り2日で大瓶3本、空けることができるだろうかと不安になってきた。チェンナイ空港の免税店で買ったジョニ赤のリッター瓶もほぼまるまる残っているのだけど…。
さて、少し時間を戻して、屋台の一軒では「I wanna take away」が聞き届けられず、アッパムを皿にのせて出されてしまったので、インド人客にジロジロ見られながらおとなしく立ち食い(もちろん手食べ)。さらにドーサをおかわり。賑わっている屋台を選んだのが図に当たったか、とても旨い。が、七分丈のズボンからのぞくスネが、仮借ない蚊の攻撃を受ける。昼間とうって変わってやたら小便くさい通りには、野良犬がウロウロ。このほぼ常温でシャバシャバのココナツチャトニ、大丈夫かしら。食べた手はどこで洗えばいいんだろ。この皿、ちゃんと洗ってる? などなど、店で食べるのとは違って気になることが多いのだが、そんな些末事に足を取られているようではインド食べ歩き単独行など遠い夢。幸いこちらへ来てから、導師やMさんの後見もあって胃腸は一度も壊れることなく通常営業中。後半戦、倒れない程度に攻めていかねば。
さらに時計をグルグル逆回し。Mさんお手製の昼食は、油脂分、塩分ともごく控えめな、優しい家庭の味だった。チェンナイ在住だが実はデリー出身で、北インド料理がソウルフードであるMさんにとっても、やはり『デリー・ハイウェイ』のような濃い味は外で食べるたまのご馳走であり、常はこういうあっさりご飯を食べているのだな、と妙に安心する。「おいしいものは脂肪と糖でできている」。私撰・平成ベストCMコピーであるが、この脂肪と糖を過剰摂取する生活習慣こそ間違いのもとであって、オーバードーズをごまかしたいならサァこのお茶を飲みなさい、という論法は、バカ舌の成人病患者を増やすばかり(そこを巧く糊塗しているからこその名コピーではあるのだが)。おっと、横道。
K-5Ⅱs 左から反時計回りに、ホウレン草に似た名称不明の菜っ葉、カリフラワー、ブラックアイドビーンズとココナツ、ムングダル(なんとフレッシュである!)を使ったカレー。デザートには蕎麦粉のプディング、ジャックフルーツにマンゴスチンなどなど。料理の辛さはおおむねココイチの1辛かそれ以下、MAXでも2辛には届かない。塩気もごく柔く、食後ちっとも喉が渇かないので時間差で驚いた。
鉢返し代わりの本日の演奏は、この日までゆったりとした曲をしか吹いていなかったので、忙しい曲もあるんですよアピールのため八重衣の前手事をかなり速めのノリで。学校から帰ってきてお疲れの娘ちゃんは吹いている間にグッスリ寝てしまった。2m先で吹いているのに寝られる中ヂラシは、そりゃよい中ヂラシってことだろう、と解しておく。お嬢ちゃん、知らないだろうけど、五のヒのメリってそりゃもう難しいんだよ。