もはやMさんにおんぶにだっこの日々。昨晩は、Mさん宅から徒歩圏内にあるカラクシェトラ(南インド最高峰の音楽・舞踊学校)の立派な音楽堂で、カルナティック・ボーカルという異常にテクニカルな声楽の名手、アビシェーク・ラフラン(Abhishek Raghuram)氏率いるユニットのコンサートをたっぷり3時間。
LX100(以下同) 心地よい響きの音楽堂。開けっ放しなので蚊よけは必須。
Mさん曰く、このホールはインド国内ばかりか世界的にも音楽と舞踊の殿堂と仰がれる格の高い場所で、ゆえに内外から著名なアーティストが入れ替わり立ち替わりやってきては、ノーギャラ・入場無料(有料の場合でも超破格値)で演奏会を開くのだそう。ラフラン氏も年中世界を巡って歌う若き巨匠で、たまにインドに帰ってきての公演ではチケットなどまず取れない(取れたとしても5000ルピー以上!)ようなお人なんだと。そのレベルの音楽を毎日のように楽しめるという奇跡。この地の利こそ、Mさんがチェンナイの中でもココ!と住まいを決めた大きな理由であるそうだ。もちろん昨日も無料だったが、招待席にはチェンナイのVIPがズラリ、最前列の地べた席は学生たちに開放され、一般席を埋めるのも身なりとマナーのいい紳士淑女ばかり。うーむ、ハイソサエティ。
歌と演奏は、圧倒的だった。声をあれほどメカニカルに操れる人間を、西洋音楽の声楽家含めかつて見たことがない。インドの声楽を褒めるための語彙を私は持っていないが、ああこりゃあホンモノ中のホンモノだ、と一聴して分かるパフォーマンス。そして恐ろしいことに、彼らの音楽は途切れない。各曲20分から、長いもので40分以上あったはず。それらが一段落して拍手が起きても、ラフラン氏は低めた声でハミングを続け、そのまま次の曲へ移っていく。つまり、3時間ずっと歌いっぱなしであったのだ。なんというスタミナ。ツアーを一緒に回っているのだろうバイオリンや、打楽器のムリダンガムとカンジーラも終盤の7拍子の曲(これが40分)でおのおの5分以上の強烈なソロを聴かせてくれた(ひとり、シタールに似たタンプーラだけ曲中の音が妙に小さく、ソロも持たせてもらえなかったのが不思議ではあった)。
そう、拍手といえば、どこが終わりなのか私にはよく分からなかった全曲において、聴衆は一度もバラけることなく一斉に拍手を送っていた。前述の通り、歌は続いているにもかかわらずだ。「もちろんみんな曲を知ってマス。どれも有名な曲デス」とMさん。客の教養…。言わ花…。
演奏終了後にかろうじて一枚。ムリダンガムに半分隠れている水色シャツがラフラン氏。30代半ば。若っ!
興奮冷めやらぬまま宿に戻り、もとい、Mさんに送ってもらい、そういえば、シャクティを今聴いたらどう感じるんだろうと動画をあさってみる。と…ああ、これはジャズ的に咀嚼されたインド音楽だったのだな、と瞭然。ラヴィ・シャンカールをはじめ北インドの音楽がベースではあるのだが、そういうエリア由来の差異ではなく、間(ま)が全然違う。三曲と現代曲の間が全く異なるように、楽器ではなく感覚が違うのだ。いい悪いではない。
さてもさても、伝統音楽のピークレベルと聴衆を含めたアベレージ、地域に開かれた超一流の音楽堂とエスニック・ミュージックの教育機関、マイクを使うことについての私的な悶々(昨日はもちろんボーカル、全楽器で使っていた)等々、思うところをザクザクと刺激される、濃密すぎるほどのひとときであった。…と、朝から感慨に耽っていると、Mさんから「今日は Sonal Mansingh の舞踊を見にいきまshow!」とメールが。この恩、どうやって返せばいいのやら。
最後に、昨日食べた(インド素人の私的に)珍しいもの。
インドのタコ焼き、と紹介されることが多いパニヤラム。イドゥリに似て非なる生地を揚げ焼いてカリサクモチモチに。タコは入っていない。『THE GRAND SWEETS & SNACKS』にて。
同店にて、俵型おむすびのようなイドゥリ。この地に特徴的なカンチプラム・イドゥリの一種なのだが、調理の省力化を図る(?)このフォルムはこちらのオリジナルだとか。
玉ネギたっぷりラヴァ・ドーサ。パリパリおいしく、食べごたえあり。『MURUGAN IDULI SHOP』にて。