先月の24日は、生まれて初めてのダブルヘッダー。毎度、告知を忘れたまま舞台に上がってしまう。
まずは音楽の殿堂、京都コンサートホール・大ホール! の、ホワイエにて(カクッときてはいけない)、京都市交響楽団公演のプレイベントとして、邦楽器紹介のためのミニコンサート。いやはや、コンサートホールには京響を聴くため何度も来ているが、あの大容積のホワイエで吹くことになるとは思わなかった。
MC含め30分という制限があり、3曲くらいが適か。例によってプログラムには悩み、いったんは春の海+地歌素吹き+鹿の遠音のハードコアな番組を提案してみるも、普段邦楽に親しみの薄い客層なればいま少しソフトに、とのリクエストをいただき、ではと2曲目をクラシックのさわりコラージュに。本公演で演奏される曲、その作曲者たちの他作品を繋ぎ合わせて「この道(山田耕筰)→交響曲第2番(シベリウス)→月の光(ドビュッシー)→シベ2再び→まちぼうけ(山田耕筰)」としてみた。ロツレチを振らねば五線譜を読むことも能わぬ私であれば、楽譜の書き起こしにはやたらと時間がかかったことよ。そして、月の光の前半はあんなに複雑な拍構成だったのね。昔からピアノ本曲のように聴いていたので、譜を意識していなかった。
天井までは15mほどか。大ホールには及ばずとも広大な空間ゆえ音は素晴らしく響き、力を入れずとも吹けて具合よろしと思っていたのだが、ここはホワイエ。お客さんの私語を禁ずる根拠の薄い場所であり、本公演の開演時間が近づくにつれて客数もにわかに増え、最後の鹿の遠音の頃にはさざめきのエコーが通奏低音になってしまった。吹き合わせ相手を引きうけてくださった岡田道明先生とは、大きく離れた場所で吹き始め、次第に近づいていく(今回の場合は、私のいる吹き抜け階段の踊り場=見立てステージに岡田先生が近づいてくる)演出であったのだが、互いの音尻が聞き取りづらくなって継ぎ目の呼吸に苦労した。
春の海は、YouTubeに上がっていた箏のみ演奏の音源をカラオケに使わせていただいた。演奏は阿佐美穂芽(あさみほのか)さん。使用許可をいただきありがとうございました。まあなんとか。クラシック・コラージュはどうだったか、経験が少なさすぎて、自分では分からない。シベ2の第4楽章のサビを竹一本で吹いていい機会なんて、まァそうあるもんではない。
なんしか、仮ステージまわりに集まってこちらを注視(注聴)している人が100人弱、ホワイエにいる人の総数で200人ほどだったろうか。邦楽の舞台規模としてはまずまず、もとい見栄を張りました、かなりのものだったんではなかろうか。来ていたのは当然、クラシックが好きな人、クラシックに興味がある人。お耳を拝借できたうち、「お、日本のクラシック(楽器)もちっとは面白そうやん」くらいに思いなしてくれる人が1割ほどはいてくれると嬉しいのだが。
K-1 Ⅱ
終演後は大急ぎで着物を畳み、本公演を(失礼ながら)前半のみ拝聴して次の舞台へ。
こちらは、京都府と府庁旧本館利活用応援ネットの催す
「観桜祭」の一環で、「春のコンサート・ピアノと共に」というプログラムに、ピアノの清水翔仁さんとともに(再度着替え直した和装で)参加。さくらとグノーのアヴェ・マリアを吹いた。
演奏者は1~2曲ずつ入れ替わり立ち替わり。であればお客さんの出入りも増え、落ち着かないムードにはなるのだろうと予想したのだが、あにはからんや、みっちり100人近かったろうお客さんの大半はどっかと腰を下ろし、集中して演奏に聴き入っていた。嬉しい誤算。人いきれと床一面の絨毯、旧府庁舎のレトロな造りで響きはほぼなく、そのややハードな環境ゆえにスッピンの音をストレートに伝えられたのではないかと思う。少なくともピアノと尺八という取り合わせは邦楽界隈の外の人にとっては珍しかったろうし、出張った甲斐はあったように思える拍手であった…はず。
さらなる収穫は、同じアップライトピアノをプロアマ問わずの代わるがわるで弾くのを聴いていると、にわかに耳が肥えていくのを感じられたこと。ただポーンと一度白鍵を打つ、大した差などつきそうにもない一音が、失礼ながら弾く人によって本当に輝いたりくすんだりするのだなァと。こういう音の連なりの輝度がより高い人を優とする世界があるとして、その優劣の果てしない極北にトップオブトップのピアニストがいるのだと思うと気が遠くなる。さまでに厳しい勝ち抜きピラミッドは、竹にあるだろうか。
そんな感慨を得られた春の一日。この日、5曲吹いたうち古典と呼べるのは鹿の遠音のみだったが、さほどの欲求不満にはならなかった。もしかして私は、「古典以外は吹きたくない」というわけではないのかもしれない。まわりくどいが。
さてダブルヘッダーと言えば昨年のオータニサンだ。初完投初完封にホームラン2本。かのマンガのような八面六臂は雲の上。凡々たる我が集中力からすれば、舞台は一日一番がいちばんではある。
あ、観桜祭は4月7日(日)まで連日イベント多彩。観桜・感応に絶好の折柄、もう我々の出番はありませんが、よろしければお運びを。