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いずこじ

陰陽、笹の葉、風の色。琴古流尺八、道中甲有り呂有り。

Like a homing bird

7月に録画してほっぽらかしていたEテレ「最後の講義 ジャズピアニスト 山下洋輔」をようやく見た。とてもいい番組だった。

山下さんをはじめ、ジャズというのは即興の音楽だ。我々のように、すでに定まった曲を演奏する古典畑の音楽人とは志向も思考も違うのだろうという(やや劣等感を伴った)先入観もあって、「だから僕たちは(あなたがたと違って)自由なんですよ」というニュアンスのメッセージが聞こえてきたらイヤだなあと、ゆえに長らくほかっておいたのだったが、いや浅はか。もちろん、そんなしょうもないところで音楽をやっている山下さんではない。

自由でありたい、どこまでも自由に好きな音楽を奏でたい、という氏の志向は一貫している。ゆえに、すでに聴いた音楽を何でも弾けた子供時分にはバイエルを拒否し、高校でジャズに惹かれた。仕事としてのダンス伴奏を続けていてはダメだと思い、モダンジャズへ…とはならず、その前にクラシックを学んでおかなければならないという「本能的な思いで」国立音大の作曲科へ。嫌いだった楽譜や楽理と格闘するうち、フリージャズに出合う。肺病で演奏を中止、1年かけて論文「ブルーノート研究」を仕上げ、1969年、27歳で山下洋輔トリオを結成。フリージャズの世界に漕ぎ出す。

ここで引用された「エネルギーが溜まりに溜まっていた。膨大なエネルギーをどうやって出したらいいのか。それまでのやり方では、通用しなかった」という述懐は印象的だ。印象的? 違うな、巨匠を相手に言うべき言葉ではないが「それ、俺もだよ!」。

即興であり、さらによりフリーである世界で、しかし山下さんは、既存のやり方からははみ出しつつも、もちろん自身の思う「音楽」から逸脱することはない「自分の好きな音楽」を突き詰めてきた…とまとめてしまってもいいのかどうか。しかし、「あ、あれはあいつのアドリブだって分かるような、自分の節を作ってくのが、まあ理想だよね」というセリフからすると、手クセのような “お約束” を肯定する立場のように見えるし、実際、氏の音楽はそのようにできているとも思う。トレードマークの肘打ち奏法も、ドラムスのインパクトに対抗するためのロジカルなアイデアであり、破壊や破戒ではない。まして、フリーだからとてピアノを捨てる/離れるような素振りは一切ない。大事なところはズラさないのだ。

だとすると、という話になってくる。

師匠と二人三脚、古典の花深き処を目指す我らも、志向においてそう遠からずとは云えまいか。なにせ花深処無行跡、花が深くなるほどに、そこには誰の足跡もついていない。吹いている曲こそ古いが、「どう吹くか」は私の自由と責任において決定されるし、私はもう「あの名人のように吹きたい」という偶像を持たない(「あのワザいいなあ、羨ましいなあ」はしょっちゅうだけど)。至らぬなりに、これまでに誰もやれていない古典を目指す道にいる、つもりだ。

振り払うべき軛が「楽譜」「既存のメロディ」「既存の奏法」であるにせよ、「聞き飽きた音」「得手勝手な運指」「曲想を無視した古くさいフレージング」であるにせよ、「今あるものではダメだ」と思う健全さでもって、山下さんはジャズを弾き、私は本曲や三曲を吹く。「今までのことで満足できることがない、という発見ですね。満足できるならそれをやればいいわけですが、そうじゃない、一歩を踏み出すということは、そういうものがない状態であるわけで、だったら自分で何かをやってみよう、そう思うことですね。自分は自分で、自分の足で進む、そう思ってみたらいかがでしょう」という山下さんの学生へのアドバイスが、我が推進力となるのを感じた。

フリーの行き着く先はジョン=ケージの「4分33秒」であろうけど、あんなのはちっとも面白くない。すなわち「フリー」もまた題目であり、どう面白く運用するかが肝要なのだ。そしてこう書けば道理として分かるとおり、「古典」もまた題目である。古典の名のもとにルール違反のデタラメな接ぎ木や、劣化コピーの再生産をやっている人は大勢いる。それでも、(私から見ての)そんな手合いと混同されるとしても、私は古典ばかりの竹吹きですと自己紹介をするよりない。運用の面白さを云々する以上、私が面白がり、あなたが面白がってくれない限り、我が古典の自由は達成されない。そんなゴールはまだ見えもしない彼方にあるが、目指さなければ着くこともない。


LX100

しかし、こんなにも “面白い” 御仁と組んで世界を巡る小濱明人さんは、本当に羨ましい境遇にいるものだなあ。此岸も本来は負けないくらい面白いハズなんだけど、私を心底面白がらせてくれる人は、今のところ指を数本折るともういなくなってしまう。つい昭和あたりにはゴロゴロしてたはずなんだが、みないずこへ…。芸は一代、と師匠の云う。ジャンルとしての発展や爛熟も、人につれて期限が区切られてしまうものだろうか。
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河宮拓郎(カワミヤタクオ)
性別:
非公開

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