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いずこじ

陰陽、笹の葉、風の色。琴古流尺八、道中甲有り呂有り。

初学入門を読む

琴古流尺八初学入門手引。幾度となく参照してきたが、「読む」ことはなかった。「呂」に「リョ」、「甲」に「カン」と赤ペンで読みを振ってある。音符一覧のうちロ・ツ・レ・チ・リを丸で囲み、リとヒが線で結んである。初回の稽古は確か、早大虚竹会の新入生幾人かで一斉につけていただいたはずだ。記憶力が極端に悪い私は当時の師匠の言を全く覚えていないが、今や屏風折りの頁があちこちちぎれかけている “初学入門” を見返せば、かろうじていっとう初めに何を教わったのかは判る。

それはともかく、音符にまつわる附言の、やや読みづらい片仮名文を平仮名文に直してみると…

メリカリ
の作用はメリは俯しカリは仰ぐ、但し俯しとは腮を引くの意にして仰ぐとは腮を出すの意なりとす。は送りの外音を強むるために押す作用を当りと称す。(或押)とは各自の好みにて或は之にて押すも亦宜しとの意なり。以上の項目に付て充分なる解釈は到底出来得ざること故委細は先輩者に就て学ばれたし。


今さら、開孔・閉孔・翳指・半開の運指ルールを知らない音はない。押し送りの孔の指定についても(知らない項目があったら大問題だ)。しかし、先に書いた「『開ける』とは、どこまで開ければ『開ける』なのか」は、のっけからまずまずの難問。「閉じる」にしたって、指の腹・先などどこで閉じるべきかは見解の分かれるところかもしれないし、各人の指の長さ・太さなどにも絡む。また、孔に対しての指の角度が最適かどうかは、イモヅル式に、指で竹をどう支えているかという条件と関わってくる。一~四孔は各指の同じような部位で押さえたとしても、五孔は奏者の反り指の度合いによって押さえ方が異なろう(ちなみに私はあらゆる関節が硬く、指という指がほぼ全く反らない)。

開と閉だけでも、ざっくり挙げて上のようなパラメータがある。翳しや半開となると、奏者各々のメリ幅やアクションなどパラメータが三次元的になってくるし、さらに楽器個々の特性とも絡むのだから、なおさらの曼荼羅。たとえば「ツのメリ」という一音が要求する吹奏が、いかに膨大で複雑な操作の集合であるか。これを一様の文字で解説することはほとんど不可能であるし、たとえ書けたとしても、尺八の奏法をその調子で詳説していけば、初学の徒がとても読み通せないような分厚いテキストになってしまうだろう。だからほとんど記号的なまでに簡単に示し、詳細は先達に尋ねるがいい、となる。運指ルールだけを知ったところで「充分なる解釈は到底出来得ざること」だ。

私はしばしば、学生時分に半可に覚えたまま染みつかせた悪手を吹いて師匠に叱られるが、それとて、私が決定的な尻尾を出し、しかも繰り返すまで、師匠は「それ違うんじゃない?」と指摘しない。悪手であることがはっきりしてやっと、「なんか変なんだけど、なんでだろう、とずっと思ってた」となる。先輩者にとっても、運指の障りの特定さえ簡単ではないのだ。「委細は先輩者に就て学ばれたし」。当然至極だが、書いておかねばならぬことと。いくら楽才豊かな人間であっても運指表を見ただけで正しく竹を吹くことなどできはしない。特にメリ。メリ=俯し=腮を引くの意、で通じる人など居るわけがない。

いけない、楽典各論の復習と煮詰めをするつもりが、つい附言の誘いに応じてつらつらと。次回、軌道修正、再出発。


LX100 左京区『絹布』にて。マニアックにして素晴らしきロケーション、と、氷。

久々に宣伝。「あまから手帖」9月号、第二特集「あたらしいバー」にて神戸・京都のゆかしきバー数軒と、連載ページ「バイプレ!!」にて氷のプロたちの人知れぬ努力について書いております。第一特集「今日、ワインとなに食べる?」も充実の内容にて、左党の諸兄諸姉におかれましてはどうかご一読を。
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河宮拓郎(カワミヤタクオ)
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