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いずこじ

陰陽、笹の葉、風の色。琴古流尺八、道中甲有り呂有り。

年の瀬のみぎわ

でかいニキビがぽつんとできた。いや、このトシでは吹き出ものか。まあ呑みすぎ食べすぎで胃腸が荒れていることは間違いない。年末から一升瓶を延べ10本ばかり開栓して、とっかえひっかえよく呑んだ。冬はこういう呑み方が気兼ねなくできるから嬉しい。

さて、12月25日の「阿部幸夫七十五歳誕生日コンサート」、オノレの出演曲についての感慨を。

鹿の遠音+楫枕
地歌の前奏に本曲を吹くのは初めてだった。タイから帰国するなり上京して聴きに来た家人から「あの前奏にはどういう意味があったのか?」とあとで訊かれたが、私には分からない。ただ、阿部先生は黒髪の前奏に雪の合の手を置いたりするペアリングの趣味をお持ちなので、そうした嗜好の展開であるのだとは思う。
5分版遠音の最後の呂ロから「〽空艪おす」にどう吹き添えるかが難しかった。前歌前半では阿部先生独特の「もう落下間違いなし、というポイントでふわりと機首を上げて少し先に落ちる紙飛行機」の如き間のとり方と、たまにその逆をいく意外な詰め方(これが怖い)にたたらを踏むこともあったが、前歌中盤「寄るよる身にぞ」から終曲にかけては一丁一管のアンサンブルをそれなりに遂行できたような。手事のノリも楽しかった。
C(リ)さえピタリと合えばもっとなァ。あれはナゼなんだろう…。

こんくゎい
曲を通して、四者のスイングはかなりシンクロしていたのではないかと思う。下合わせの機会がもう2回ばかりあれば、緩急の、特に急の部分でもっと小気味よいドライブを表現できたはずで、このあたり、ひとり遠隔地からの参加であった私が足を引っ張ってしまったか。
有楽伯で何度も共演している松浦くんの深く美しい声を数年ぶりに聴けたのが嬉しかった。そして、阿部家の次代を担う大介さん・勇介さんの、それぞれの個性が滲む歌とグルーヴ。今でも非常に面白い対比を内包する、このタッグを磨いていった先の完成形はどんなだろうか。そこへ三曲で割り込ませてもらうときのことを考えると大いに楽しみだ。
それにしても、中途半端に覚えている曲を、譜を置いて吹くのはかえって怖いなァと改めて。馴染みのある旋律でさえ、舞台でロツレチの連なりとして対面すると「あれ、こんなメロディあったっけ?」とギクリとさせてくれる。化かされポイントが無数にある吼噦ではなおのこと。

交声曲 蕗 夕べの雲
この会からさかのぼること数日、私は九十九里の師匠に稽古をつけてもらっていたのだが、本曲そっちのけ、稽古時間の半分はこの曲のカラオケ練習に充てさせていただいたのだった。その甲斐あって、なんとか本番までには「合わせられる」ところまではイケたか。しかし、主に蕗の歌とユニゾンを奏でる竹の手を「ともに歌う」には遠く、しかも、譜を平置きにするのが恐ろしいからと、みっともなくも譜面台の上だけ使い、譜を起こして音を遮る体たらく。
演奏としては、あちこちでミスをしでかしたが、本番でアレならまァ…くらい。捲土重来。
交声の妙については意外なことに、声を交ぜたことについての幾分ネガティブな感想が親しい邦楽人から寄せられた。私は下合わせから本番まで一貫して自分の受け持ちで手一杯だったので「うーん? そうだったのかな」と訝しんでいたのだが、年が明けて阿部先生から送っていただいた舞台の録画を改めてみるに、ん、なるほどこれは、交声というよりは “溶声” の趣きがやや強かったかもしれない。2曲の歌が溶け合いすぎていると云えばいいだろうか。その要因はきっと単純に、蕗2・雲2という歌い手の数の多さにあったのだと思う。
この曲の竹方にご指名いただいてほどなく、阿部先生から参考音源として大介さんの夕べの雲と阿部先生の蕗、そのサシ合奏の録音を送っていただき、私はそれを聴いて「こんな邦楽があり得たのか」と寒気を覚えたのだが、その感動を後押ししたのはさだめし、親子の声での歌い合わせという “特異中の特異” の面白さが、各々がソロで歌うことでよりくっきりと浮き彫りになっていた、という事情であったことだろう。
今回は、阿部先生が終演後の挨拶で明かしたとある事情から、人を増やす必要があった。次回は、いったん歌はサシで、竹もなしで披露していただければ、私の覚えた震えを共有する人がグッと増えることだろう。


LX100

会場は、響きゼロに近いほぼ講堂、しかも盛会で人が音を吸うこと吸うこと。会場でのリハはもちろん、舞台での音出しもなし(会場利用のスケジュールから)での1曲目・鹿の遠音の吹き始めはなかなか苛酷だったが、いい勉強をさせていただいた。

あ、そうだ。「糸に合わせて抑え気味にに吹いてましたね」という感想も複数の人からもらったのだった。私としては引いたつもりは全くなく、いつもどおりか、むしろ無響の会場に負けじと吹いていたのだが、とハテナ。都合よく解釈すれば「うるさくない音」に、少しは近づいてきた。その実態は、ろくに音が出てなかっただけか。国立大劇場の大空間を共鳴させてなお甘露の音にいささかの棘もなかった盟主の域は遠く、精進。

阿部先生は、新年早々の大仕事を終えてひと息ついておられる頃だろうか。次回は喜寿記念演奏会だが、これは数え年でやるとすると今年の年末…? さてさて。
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河宮拓郎(カワミヤタクオ)
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