いま、近所の『にしむら酒店』で求めた「秋鹿」大辛口純米吟醸無濾過生原酒・2020年12月上槽・2021年9月出荷という、特定するためにやたらと文字数の要る酒を、バチ当たりにも電子レンジで軽く温めて呑んでいる。これが、何の気なしに買ったのに、ちょっと信じられないくらいの旨さだ。私にとって、つまみの要らない燗酒というのは滅多となく、あれば必ず傑作なのだが、この酒は数年内での私的ランキングで表彰台入り間違いなしの大傑作と断言できる。こんな酒が1升瓶で3000円チョイとは、いやはや、申し訳ないほどの酒呑み冥利。明日、酒屋を再訪してもう2升ほど買い足そう。
と、呑みながら見ていたNHK-BS「国際報道」(の地上波再放送。うちはイマドキBS契約をしていない)では、フランスのシェフやソムリエが選ぶ日本酒コンクールで、某蔵の純米大吟醸が960銘柄のうちの最優秀賞に選ばれた云々と。ヒヒ、と下卑た笑いがつい漏れる。私はその酒を呑んだことがないが、さぞかし吟醸香華やかで透明感にあふれ、“日本酒ではないような” 味がする酒なのだろう。実に幸いなことに、私はその種の酒に全く用がない。私が好きな系統の酒が海外でももてはやされるようになるには、その国で日本食が相当にディープなレベルで普及する、という大前提が必須となる。潮の味や、だしや醤油や味噌や発酵や、そうした食物と合わせるのでなければ、日本酒のポテンシャルは決して十全に理解され得ない。私見。
もうこの先は書くだけ野暮だろうが、私はフレンチやイタリアンに合わせるための、もしくは合わせるつもりの、ワインの代用品になるような尺八を吹いていないし、今後も吹かない。吹いてみたらマグレで意外とやれるのかもしれないが、残念ながらそれに割く時間がない。少なくとも刺身、望むらくは、おひたしや白和え、田楽、鮒鮓と合わせるための、いやもっと言えば、それこそ単品で楽しんでもらえるような尺八をものしたいと思っている。フランスで賞を取るような竹は、他の人が一所懸命頑張ってくれれば重畳。私はドメスティックを愛するし、叶うならドメスティックを愛する人に愛されたい。
LX100
あ、でも思い返すに、下京区『Yu La La』では開店以来、発酵調味料を多用するラオス料理に(私の好きなタイプの)日本酒を合わせるという提案を続けていて、これが快哉を叫びたくなるハマりよう。こういう横道との邂逅も楽しいのが酒の道であり、竹の道も同様であってくれれば十年一日の辛気くささがたまに紛れて気持ちのいいことだろう。笹の露、竹の露。そういえば、「竹の露」という伊根『向井酒造』の、地元でしか流通しない酒も旨い。よいよいよいの、よしなしよしなし。