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いずこじ

陰陽、笹の葉、風の色。琴古流尺八、道中甲有り呂有り。

きもちよく

練習を聴いてもらったあるひとに「気持ちよく吹いてますね」と言われた。そのひとは邦楽器の経験はないし地歌や本曲を聴きつけてもいないが、音楽や舞台、文学など芸術一般に親しみ、詳しくないジャンルのパフォーマンスについても自分の物差しで良し悪しを判断できる教養と知見を備えている。

その言葉が出るまでずっと褒めてくれていたので、「『気持ちよく』ってどういうことです?」と尋ねたときには哀れにもまだ褒められているのかと思っていたが、「自分が気持ちいい音で吹いているんじゃないんですか?」と二の矢を射られてグッとなり、次いで恥ずかしくなる。知られた、と。「自分が気持ちいい音ばかりに執着して、音楽をねじ曲げて、我が我がで吹いているってことですよ。それが伝わらないとでも?」と、きっとこのひとは言いたかったはずだが、気を遣われた。なお恥ずかしい。

思えば「気持ちよく」を諫める声は常に私の周りで響いている。ある糸の先生は「自分の音を聴きにいくな、囚われるな」と怒ったし、別の先生は「自分のいい音ばっかり頑張ってる」とサラリ。悪いと思っていながらやめられないことを指摘され、そのつどギクッと赤面して改めようと決意するのだが、やがて木阿弥。竹において、否、あらゆる楽器において命たるは音色だが、その命を必要なかたちにさまざま加工して織り上げていくのが音楽だ。この「題目」も、やはり唱えているだけでは空念仏という当たり前。

私はオノレに苦い薬を処方するのが不得手で、言い訳を並べては逃げ回るたちなのだ。というわけで更生のための荒療治、いっそ知らない人にも前科を公開してしまえの心持ち。得意の無駄歩きもそろそろ仕舞って、気持ちいい音ではなく、気持ちいい音楽を、いざや奏でむ。それにしても、耳のいい人はありがたい。感じたことを素直に言の葉にしてくれる人ならばなお。


LX100 さて、伊根もそろそろお蔵から。をにがのとからとへでより。
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河宮拓郎(カワミヤタクオ)
性別:
非公開

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