若菜
松浦検校 作曲/八重崎検校 箏手付
三絃:阿部幸夫/箏:島田洋子/尺八:河宮拓郎
<歌詞>
年はまだ 幾日(いくか)も経たぬ笹竹に 今朝そよそよの春風を 我が知り顔に鶯の 百喜びの音をたてて うたひ連れ立ち乙女子が 摘むや千歳の初若菜 (手事) 若菜摘む手の柔しさに 梅が枝に囀づる百千鳥 声そへば色さへ音ねさへめでたき
前曲「末の契」と同じく、松浦検校の作曲です。こちらも大きくは前歌-手事-後歌ですが、手事に中ヂラシ・本チラシ(チラシ=間奏と歌、あるいは間奏と間奏を接続する転換的間奏)を備える複雑な構成で、20分少々とやや長め。
新春に若菜を摘む乙女子、というめでたいモチーフを詠む歌詞と、その詞にふさわしい明るく洒脱な旋律。ではありますが、前歌は、産み字(母音)を長く長く延ばして歌う声明のような節回しが特徴的で、これは現代の感覚で聴けば「重々しい」と感じられそうなところですが、「若菜」の長い産み字には、叙情的効果とともに呪術的な慶祝の意味合いもあったとされます。息を継いでまで引き延ばされる「いィー」が計何秒ほど続くのか、数えてみても面白いかもしれません。
箏の島田洋子先生には、この数年来、三曲合奏の稽古をつけていただき、いまだ不束者ながら、さまざまなケースでの糸方からの“ウィンカー”の読み取り方が理解できるようになってはきております(稽古に通うよう勧めてくださったのは島田道雪先生です。この場をお借りして御礼申し上げます)。たおやかに伸びる島田先生の声と、柔らかく低音を支える阿部先生の声、その対比もお楽しみいただければと存じます。
(以上、パンフレットより)

撮影/岡森大輔