末の契
松浦検校 作曲/浦崎検校 箏手付
三絃:井上溪子/箏:阿部幸夫/尺八:河宮拓郎
<歌詞>
白波の かかる憂き身と知らでやは わかに海松布(みるめ)を恋すてふ 渚に迷ふ蜑小舟(あまおぶね) 浮いつ沈みつ寄る辺さへ 荒磯伝ふ葦田鶴(あしたづ)の 鳴きてぞ共に (手事) 手束弓(たつかゆみ) 春を心の花と見て 忘れ給ふな かくしつつ 八千代経るとも君在(ま)して 心の末の契り違うな
作曲の松浦検校は、「京風手事物」と呼ばれる、前後の歌に挟まれた器楽のみの長い間奏部(=手事)を備える地歌のパイオニアとされる盲官です。その代表曲のひとつである「末の契」は、京風手事物の中でも、チラシのない前歌-手事-後歌のシンプルな構成を持つ15分ほどの小曲、にして「大」の字がつく難曲です。
歌詞は、約束を交わした男との幸せな将来を恃む女性の切々たる願いと嘆き。「憂き身」は苦界の女性を指すとも考えられ、であれば、この恋の成就が難しいことも前提されていると見るべきでしょう。
旋律はこの内容に沿い、間歇的な高まりを挟みながら進んでゆきます。特に尺八においては、手事の序盤・マクラと呼ばれるアリア的な部分を、さまざまな意味で“どう吹くか”が必ず懸案となります。
三絃の井上溪子先生とは、コロナ禍を挟んで二度、「若菜」「残月」にて舞台をご一緒させていただきました。このうち昨年末の「残月」が、私の軽率な思いつきから東京の阿部幸夫先生を巻き込んだ三曲合奏となり、その賑やかな打ち上げから、今回の演奏会が始動することとなりました。今となっては我ながら佳き軽率であったと考えております。
(以上、パンフレットより)
撮影/岡森大輔