忍者ブログ

いずこじ

陰陽、笹の葉、風の色。琴古流尺八、道中甲有り呂有り。

歌を拾え

たとえば黒髪。歌の旋律と拍を「どうにかして」竹譜に書き込み、いわゆる対照譜、もしくはその要素を取り入れたかたちにする。まずこの作業を進めるだけで、糸方の弾き歌いがどれだけ難しいことをやっているかがよく分かるし、その譜に沿って吹けば、ヨノナカの多くの三曲合奏がそうであるところのズレた合奏がなくなる、もしくは、ズレの程度が著しく小さくなる。いや、そうじゃないな。目指すべき「歌が導く地歌」という当たり前に近づける、が正しかろう。ズレるのは、歌の拍節を読めていないからズレるのだ。拍節が読めていれば、歌にどれだけメリヤスがかかっても合う(※)。

五線譜で書かれた古典の竹譜はないし、縦譜のままでいいとも思うのだけど、地歌・箏曲の竹譜については「(糸ではなく)歌と合わせる」という根本的な目的を遂行するための工夫が(琴古譜・都山譜を問わず)ほぼないし、長い時間そのままで今に至っているという状況を情けなく思う。もし黒髪の五線譜があったなら、そこには歌の旋律がオタマジャクシで書かれ、歌の細かなニュアンスはもちろん表記しきれないとしても、「どこで音が始まるのか」は簡単に分かる。この便利に、何か不都合があるだろうか。さらにそれが縦譜になっていたら、縦譜で学んできた竹吹きにとっては好都合しかあるまい。いや、これからの古典は五線譜でないと話にならない、という考えも大アリだし、そちらのほうが発展性も圧倒的に大であるはずだが、それは五線譜オンチの私ではない誰かが考えればいい。

「どうにかして」の方法にはいろいろあるだろう。まずは、複数の文字色で書き分けて、歌の旋律・拍と竹のそれを容易に弁別できるようにしなければならない。竹と歌の「行」を分けるかどうかも考えどころだ。分ければ互いの旋律はよく分かるが視線の移動が煩わしいし、対照譜との相性が非常に悪い琴古譜(琴古社パターンを除く)では正確な表記が不可能に近い。同じ行に竹と歌の両方を書き込むことは、まずスペース的に厳しく、現状の各種縦譜よりもだいぶ大きな字にしないと、よし書き込んだとて竹と歌をともに読みながら吹くというのはちょっと難しい。まあ現状の譜面はそうした書き込みしろを設けていないのだから、やりにくいのは当然だ。

そしていちばんの問題は、歌が会派によって異なる、ということだ。つまり、1曲につき複数の譜面を用意する必要がある(微調整の範囲で複数の会派を賄える曲もたくさんあるだろうけど)。メンドウではあるが、慣れてくれば一曲仕上げるのに丸一日はかかるまい。社ちゅ…もとい、団体でやれば、主だった曲群などほどなくカバーできそうだ。

兎に角。

対照譜の要素を取り入れた譜面が普及すれば、ヨノナカの三曲合奏の平均レベルは飛躍的に、それまでがバカバカしくなるほど向上するだろう。初めは、手持ちの譜面に赤字できちゃなく歌詞と附点もしくは都山音符を書き込むだけでもいい。やっているうちに、「あ、こうしたらもっと…」がいくらでも出てくる。最終的に「あ、これ別の紙に自分で起こす方が早いわ」となるのだが、そうして出来上がった譜面が、達筆で有り難さ満点の、しかし竹の音しか書かれていない公刊譜よりよほど役に立つことは一度吹けば容易に分かる。「どうにかして」をどうするか、考えることがどんどん楽しくなっていくはずだ。

以上、昨秋、阿部幸夫先生が起こした蕗の竹譜を吹きやすいよう書き直すうちに考え始め、その後いくつか歌物を採譜するうちに固まってきた物思い。こんなこともやってこなかったのか、私。こんなことも考えつかなかったのか、先達。

※)拍節が読めていても合わないことはしばしばある。主に「間」の感覚・表現・演出などの方法の違いに起因するのだが、それは、社中・会派や個人に属する流儀と呼ぶべき大切なものであり、糸方の譲れない個性。ゆえに、その流儀の有無・程度を確認するためにも下合せは必須なのだ。ただ、あらまほしき節・抑揚を歌に付けてくれない(と感じられる)流儀の会派・人もあって、こうなると竹方としては「合わせる『せーの!』の手がかりがない」場面が出てくる。これはカンで合わせるしかないので正直キツい。合わせるけど。


LX100 ※人形です。

この世界、「糸をよく聴きなさい」と言う人はたくさんいるが、「歌をよく聴きなさい」という言の葉はあまり聞かれない(ぼかしの受動態)。なぜだろう。ほんとになぜだろう。糸に合わせて合うのはせいぜい手事だけなのに。まあいい。今や音源を一度パソコンに突っ込んでしまえば、すり切れることもなく百万遍聴き込めるのだ。「今の歌の入り、あるべき拍からズレてましたよね。粘っちゃいました?」くらい言える竹吹きにならなくてどうする。

おっ、隠れていたコマンドがしれっと現れた! 切手切手。


どなたかのケータイ

こんな写真を誰かが撮ってくれたらしい。清水翔仁さんとの春の海に続く、二度目のレッスン生さんとの合奏。ザックさんは、たいそうキンチョーしたそうでやや走りがちではあったが、音は震えもせずしっかり出ていたのだから立派なものよ。レッスンは残りあと数回。さて何をやろう。
PR

コメント

プロフィール

HN:
河宮拓郎(カワミヤタクオ)
性別:
非公開

P R