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いずこじ

陰陽、笹の葉、風の色。琴古流尺八、道中甲有り呂有り。

楽しき異種格闘技

初めてギターと春の海を合わせた。

お相手は、スペイン・バレンシア州アラカント県アルコイ市に活動の本拠を置くスパニッシュギターとドルサイナの演奏家・藤井浩氏。去る8月にあるテレビ番組で大々的に取り上げられ、私はその番組の録画を12月になってから友人に見せてもらって氏のことを知った。その友人を通して連絡が繋がり、スペインから帰省していた氏のコンサートを私が大阪へ聴きにいったところから話がトントン拍子に進み、晴れて昨晩の共演と相成った。

藤井氏と私はそれまで互いに面識がなかったにもかかわらず、なぜかくもスムーズにことが進んだか。氏も友人も私も、同じく兵庫県立長田高校の41回生OBであるからだ。であったにしても、演奏の舞台がそう簡単にととのうものか。簡単にととのった。ときは年の瀬、神戸・三宮での同窓忘年会。

つまり余興ではあったのだが、私は非常に楽しい合奏経験を得ることができたし、藤井氏も初めて聞くという竹のナマ音に大いに興味を持ってくれたようで「ちゃんとしたコラボの機会を設けよう」と。本番のわずか2日前に、しかも合奏用としてまともに使えるギター譜がなかったためピアノ譜を送りつけたにもかかわらず、氏は忘年会の直前、カラオケボックスでの下合わせ1時間余で見事に弾きこなし、ちょいとスパニッシュな味つけまでしてくれた。このあたり、過去にさまざまな環境や条件で舞台を務めてきただろう専業演奏家の強靱さを見た思いだ。

とはいえ、初顔合わせの、異ジャンルの、酒の上での(二人ともかなり飲んでしまってからの演奏となった)。あちこち綻びはあったし間延びもしたのだが、お互いのタメ方、テンポのドライブのかけ方、強弱抑揚のつけ方の違いなどことごとく新鮮で、面白くて仕方なかった。古典ばかりやっていると、この手のイベントはそうそう向こうからやってきてくれるものではない。

宴席にもかかわらず静かに聴いてくれた善男善女の、聴き手としての能力の高さにも大いに恐れ入った。結婚式や宴会などで余興を務めたことも何度かあるが、まあ聴いてもらえない、どころかおおっぴらに騒ぐのが普通だ。きっとこの人たちはそんな場でも、ひとり黙って奏者の音に耳を傾けるのだろう。同窓のハシクレとして嬉しかった。


K-5Ⅱs

さて、フュージョンだ。今回、私は春の海の竹パートをそのまま吹き、藤井氏のギターに箏パートを弾いてもらった。私は動かないまま、一方的にこちらに歩み寄ってもらったことになる。だから私にとっては尺八の演奏上ほぼ何の違和感もなかったが、ギターはフレーズや奏法、あるいはもっと大きな「ギターの約束ごと」において「これ、違うなあ」と思うところがいくつもあったに違いない。逆に私が次の機会において、例えばアランフェス協奏曲の第2楽章を竹で吹こうとしたならば、さまざまなジレンマに襲われるだろうことは容易に想像がつく。

こんどギターと春の海をやることになりましたと報告する私に「この肝がすわれば、行き先を心すれば、道中、何と交わろうが赤くはならない。得るもの多し」は、不肖の弟子の来るべき迷いを見通した師匠の先回りであったか。みくじいらずの霊験、年も明けぬうちからあらたか。そんな拘泥など遠い昔に克服して幅広いジャンルと刺激し合う洋楽器奏者の自由さを少し羨みつつ、また、羨むことができるこの位置こそがイイのだと思い直しつつ。
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プロフィール

HN:
河宮拓郎(カワミヤタクオ)
性別:
非公開

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