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いずこじ

陰陽、笹の葉、風の色。琴古流尺八、道中甲有り呂有り。

「アタリについて」訂正

前項の小文「アタリについて」について、師匠から「違う、しっくりこない」というような内容のご意見をいただいた。なぜ「というような」というボヤけた書き方をするかというと、師匠が「ほら、ここが違う」と書いてくださったメールを読んでも、私にはなにがどう違うのか分かるようで分からず、再度の講釈をお願いして、それを読んでもなお分からない、という往復が二度続いたからだ。

昨日、京都に来てくださった師匠と食事をご一緒した折に「結局、ここに大きな違和感があったんだとようやく気がついた」と教えてくださったのが、私が書いた「つまり琴古流のレとは、レの運指で吹き始め、そこから四孔を素早く開閉する=『打つ』ことで発音されるのです。」という第1段落の文のうちの「素早く開閉する=『打つ』」とした部分だ。

私は、誰にそう教わったというのでなくいつしかの自我流解釈として、アタリや押し送りの「閉→開→閉」のアクションを、「孔を閉じた状態から、指を上げて(振りかぶって)、その指を閉じる(孔に叩きつける)」と分解しており、特にこの「叩きつける」の成分が、アタリ・押し送りの神髄だと見なしてきた。尺八は吹いて音を出す管楽器のひとつだが、異例の特徴として、孔を勢いよく塞いだときに出る「ポン」「スポン」という軽やかな打音が、音のアタマや区切りを表す手段として大きな役割と音楽的効用を担っている(ゆえに、尺八にタンギングは不要であった)珍しい楽器であり、またこの特徴こそが、尺八の音を尺八の音たらしめている肝心の要素である、と認識しているのだ。「のだ」などとエラソウに言わずとも、そう考えている人はきっと数多くいるはずだが。

この「叩きつけ」を、私は “自分の中の用語として” 長らく「打」「打つ」と呼んでいて、それが習い性になっていたようだ。「打つ」は「強く当てる」の意だが、当てた後に当てたものと当てられたものが離れるのかどうかは、一般的な「打つ」という単語の定義に含まれないから。ゆえに私は、孔の素早い閉→開→閉を「打つ」となにげなく書いたのだが、これが、琴古流の技法においてアタリ・押し送りと同じく重要な位置を占める「打ち」と同じ言葉であるがために、師匠に強い違和感をもたらすことになってしまった。

師曰く「琴古流は、押しと打ち」。押しすなわちアタリ・押し送りが閉→開→閉のアクションであるのに対して、打ちは「あいている孔を、指で打つ」という一連の動作だが、その意味するところは、アタリ・押し送りとは真逆の「開→閉→」。バットでボールをひっぱたくように、孔を打った指は反動ですぐさま孔を離れる。すなわち、開けて終わり。それが琴古の技としての「打ち」だ。その打ちが(強い勢いであるとはいえ)孔を塞いで終わりのアタリと同じだと書いてあるのだから、師匠は「な、なーにを言っとるんだ!」とたまげてしまったのだ。琴古の技を解説しながら、私はかたやの重要な技の名称を失念していたのであって、確かに、誤用。御用!

というわけで、後出し校正はよろしからぬことながら、前項には訂正と注を加えておく。私は、中学の頃に太明朝で「定義」と書かれた表紙に惹かれて谷川俊太郎の詩集を買い、それが生まれて初めて買った詩集だった程度には定義が好きな方(そういや、「悪魔の辞典」なんてのも好きだった)だが、自分で何かを定義するとなれば、このように簡単に間違いを犯す。文章でひとこと「こうだ」というためには、そのバックグラウンドにまつわる膨大な知識と、あり得る反論に対する架空のディベートが入り用になる。ひとさまがツッコミを入れてくれるうちはまだいいが、誰にも相手にされなくなったら空しい言葉は言葉のゴミ溜めに嵩を増していくばかり。日々言葉を扱う仕事をしてもいるのだから、ますます気をつけよう。

「なにがおかしいのか」が明らかとなった今にして思えば、当初師匠に指摘された「ここが違う」が「あれ?違ってなかったんでは?」と思われる個所もある。そこがまた。一事が万事、ひとつ大きく間違えた文章は、そのあとで何を言っても眉に唾で読まれるのだ。用心。逆に、最初に大きな声で本当を言ってしまえば、あとの大小さまざまな嘘が通しやすくなる、という詐術もあるが。

しかし、どうだろう。「琴古流は押しと打ち」であり、かつ、私のように押しをおおかた打ちと見なしてしまうような粗忽者もたまにいるとなれば、押しも大きくは打ちに包含される、少なくとも志向は同じであるところの技である、なんてことが言えたりするのかもしれない。すなわち、「琴古流は打ち」。ゴタクを並べるばかりで押しも打ちもナマクラの切れ味であっては話にならないのだが。


ケータイ

さて、師匠はなぜ京都にきてくださったのか。その理由は、しばらく先に。ありがたい、ありがたい。

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河宮拓郎(カワミヤタクオ)
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